映画やドラマなどで、誰かに夢中になっているときや、緊張している人物の瞳が大きく開いている描写を見たことがあるかもしれません。人間の瞳孔は、光の量を調節するだけでなく、「興奮」や「感情的な覚醒」の状態を非常に正直に反映します。なぜ、私たちが興奮すると瞳孔は勝手に開いてしまうのでしょうか?この記事では、解剖学の専門家による解説に基づき、そのメカニズムを詳しく解説します。
瞳孔の動きを司る「自律神経」の二つの顔
瞳孔の開閉は、私たちが意識的にコントロールできるものではなく、心臓の鼓動や呼吸と同じく、「自律神経系」によって制御されています。自律神経系には、アクセルとブレーキのような役割を果たす二つのシステムが存在します。
- 交感神経(アクセル):緊張やストレス、興奮といった「活動モード」の際に優位になる神経。この神経が働くことで、瞳孔を広げる筋肉が収縮します(散瞳)。
- 副交感神経(ブレーキ):リラックスや休息といった「休息モード」の際に優位になる神経。この神経が働くことで、瞳孔を狭める筋肉が収縮します(縮瞳)。
私たちが「興奮している」状態は、心拍数が上がり、注意力が鋭敏になるなど、身体が活動に備えている状態です。つまり、交感神経が優位になっている状態にほかなりません。
興奮が「瞳孔拡大」を引き起こす具体的なメカニズム
興奮状態に入ると、自律神経系の「闘争・逃走反応(Fight-or-Flight Response)」が引き起こされ、体内のアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが分泌されます。この一連の反応が、目の筋肉に直接働きかけます。
瞳孔の周りには、以下の2種類の筋肉があります。
- 散瞳筋(瞳孔を開く筋肉):主に交感神経によって刺激されます。興奮時、この筋肉が収縮し、瞳孔が大きくなります。
- 瞳孔括約筋(瞳孔を閉じる筋肉):主に副交感神経によって刺激されます。
交感神経が優位になると、散瞳筋が優位に働き、結果として瞳孔が大きく開くのです。
興奮時に瞳孔が開くのは「より良く見る」ため
この瞳孔の拡大は、単なる生理現象ではなく、進化的な適応と考えられています。興奮や緊張が高まっている状況では、遠い場所や周囲の環境の変化をすばやく察知し、正確に情報を処理する必要があります。瞳孔を広げてより多くの光を取り込むことで、視覚情報を強化し、潜在的な危険や獲物(または魅力的な相手)をより「良く見る」ことができるように、身体が自動的に準備しているのです。



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